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プロローグ
特に理由はない、とか言われたらどうしようかとも思ったけれど、魔法使いは魔法使いなりに相当悩んだ結果だそうなので、俺もそれ以上追及するのはやめにした。
強いていえば三番目というのが決め手だったと、魔法使いは言う。
どうして自分を選んだのかという、俺にしてみれば至極当然な疑問に答えて。
『一番上の子は国を継がなきゃならないし、また二番目の子はその一番目に万一のことがあった時にいなくてはならない。じゃあ三番目ならいいかと』
あんまりな返答に開いた口が塞がらないでいると『ちゃんと精霊の導きもあったんだからな?』と、魔法使いは付け加えた。できればそっちを先に言って欲しかったけれど。
小さな国の小さな城で俺が産まれたとき、喜びに沸く人々を一瞬にして失意のどん底に叩き落としたのがこの魔法使いだ。
幸福の只中に現れた禍は、黒衣を纏い風にのってやってきた。
『小さき城の人々よ、大いなる博識者、精霊との契約によりあまねく世界を知り尽くした魔法使いが命じる――産まれた御子を私に差し出せ』
遠く東の森に棲むという魔法使いはどこからともなく現れると、恐怖に戦慄く人々の前で予言を遺す。
『御子が三つになる誕生日に私は再び迎えにくる。もし御子を差し出さなければ、この国におそろしい災厄が降りかかるであろう――』
そうしてめでたき王子の誕生は、その瞬間に悲劇となった。
両親である王と王妃は悲嘆にくれ、なんとか魔法使いから御子を守れないかと手を尽くした。第三王子の出生自体が“なかったこと”とされ、御子を守るためにその存在は固く秘密に閉ざされた。
しかし打つ手もなく迎えた三年後、呪われた予言は成就する。
国か王子かどちらを選ぶのかと問われた王は、噛みしめた奥歯を割らせて王子を差し出したという。
賢い選択だ――当事者である俺ですら感心する。
けど、そのときに言ったことはほとんどハッタリだとのたまった魔法使いの言を聞くに、同情も禁じえない。
『いやだって、そのくらいのこと言っておかなきゃ大事な大事な息子を渡したりはしないだろう? 俺だって別に本気であの国を滅ぼそうなんて考えてなかったんだからな?』
今更弁解を聞いてもどうしようもないけれど、それはそれで魔法使いの気遣いらしい。
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