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『だから、オーリィ。お前の父と母はよろこんでお前を俺に差し出したわけじゃない、それだけは覚えておいてくれ。あまり記憶にはないかもしれないが、お前は愛されていたんだよ』
もう覚えていない人たちの話なんて、しなくってもいいのに。
俺はここで、この森で、魔法使いと共に生きているのだから。
自分自身で選んだわけではないけれど、なにしろ物心つく前からここにいる。三つの俺を男手ひとつで育ててくれたのは魔法使いなのだ。
母を恋しがり泣く俺を、おうちに帰ると言って癇癪をおこした俺を、根気よくなだめ時には叱りつけ、最後には決まって強く抱きしめ魔法使いは繰り返し謝罪した。
『すまない――すまない、オーリィ。俺がお前を後継者に選んだばっかりにこんな想いをさせてしまって――』
『どうかわかってくれ。どうか耐えてくれ。この魔法使いの最後のわがままを、どうか許してくれ――』
結局、俺はほだされたのだろうか。
“おそろしい術を使う卑しき者”――人々が思い描く姿からはほど遠いその姿に。
俺をさらった魔法使い――レヴァンダラス・ディオ・アルファイアス・サーツィス・ミギアイアという、やたら長ったらしい名を持つ男との暮らしも、今ではすっかり気に入っている。
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