第4節「ある過去の物語とその続き」

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 場は仮設住宅の一室である。  入口横には簡素な炊事場があり、すぐに居住スペースとなる。  シンプルな作りだが、床には絨毯(じゅうたん)が敷かれ、上方の空間を横断する紐には洗濯物が干され、テーブルには複数の座布団。ここにも既に何年も人が住んでいるという生活の息吹が感じられる。  十年ほど前にヒットしたファンタジー小説、『莱童物語』の作者こそが、この両義先生であり、今、その続編の原稿が手元にあるという。  メディアミックス等も想定すれば、その価値は計り知れない作品であるが。最近コンタクトしてきてるのは、ブラックなWEB系の会社だという。  現在過去の人気作品の利権を様々な手段で回収しているその会社は、最近こそコンテンツ系の事業を開始しているが、実態として、詐欺まがいの商品の販売、搾取的性産業、表に出せないようなお金の取引、そういった事業を展開しているという。  過去に世間的に知られた作品が持つ「信用」の利用。例えばそういったコンテンツを入口にして、ユーザーを裏に用意しているアンダーグラウンドな事業に誘導していくようなビジネスモデルもあり得るだろうか。灯理はそんな可能性に想いを馳せる。
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