第5節「ヒーローがいなくなった世界で」

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「だばばー」  自分でもちょっと意味不明なかけ声で、ブランコに座って瞑目(めいもく)していた焔君に、後ろから声をかけた。 「んだよ。何でここが分かった?」 「何となく?」  焔君が立ち上がると、ブランコの鎖の連結部から、キィと錆びついた音がした。 「私たちから、警察に相談しようか?」 「ダメだ。両義先生は、ちょっと微妙な立場なんだ」  焔君の返答から、しばし意味する所を読み解く。  特に二○一一年からしばらくのこの街の混乱期、様々なスタンダードな立場から外れた状況で何とか生き抜く人達を観てきた灯理なので、察する所がある。  あの頃からある程度の時間が過ぎても、白か黒かと言われたら、灰色くらいの生き方で何とかやっている人達。そういう人達もまだいっぱいいるのだ。両義さんもまたそんな立場の人なのだろう。 「灯理さんは金が大事だって言ったな? それは、そうだろう。だがな、本当に『カッコイイ大人』達ってやつは、俺や両義先生みたいな人間が困っている時、物言わず助けてくれるんだ。『街アカリ』って知ってるか?」  焔君は、目の前の灯理ではなく、何か彼だけに見えている遠い美しいものを見ているような瞳をしている。 「震災の後しばらくしてから夜の街に現れた、助っ人集団だ。ヤクザみたいな連中とか。その予備軍みたいな連中とか。県外からの窃盗団とか。あるいは宗教的な連中とか。カオスになったこの街の夜で、『街アカリ』は困ってる人達をただ助けて回った。金? 金で動くのはヒーローじゃない。ビジネスマンだ!」  その言に対して冷たい声が、場に響く。 「そんなのは、綺麗事だよ」
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