第9節「焔(ホムラ)という男の子」

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(このヒトを)  女性は、全てが止まってしまった世界で、微笑みだけは崩さないでいた。  知ってる。バラバラになりかけの心で、仮面だとしても陽気さを貼りつけて、せめて周囲だけは温かくあったらと願っている人達。  あの日から、沢山出会ってきたから。 ――守っていけるように、生きていけたらイイのに。   ///  ここで、忘我からの帰還。  雪が降り始めていた。  瞳に映る雪明り、街灯り。  澄んだ空気に、チクチクと肌を刺す寒さに。焔が知っている、現実世界の冬のS市の風景だった。  再び歩き始めた、焔の気持ちを少し。  顔が淡く紅潮して、熱を帯びたりしている。  ちなみに焔の初恋は小学校低学年の時の学芸会で色々とストーリーを調整した日本神話をやった時の、ヒロイン、「コノハナサクヤヒメ」役の女の子。  この整理がつかない胸の高鳴りはその時以来だったりするのだけど。  そんな気持ちを素直に自分のものとして受け取るには、齢十四にして、この世界の苦さを経験し過ぎていた。  久美(くみ)(ホムラ)は、そんな男の子だ。
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