第11節「二次元? 三次元?」

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「はうっ。あの、突然ですいません。あの、焔とはどのような御関係なのでしょうか」 「ええと」  焔の関係者かと頭を巡らせながら、彼の現在の環境も考慮して慎重に答える。 「仲間、です。焔君は、最近うちの部に入部してくれて」 「部活? 焔は学校に行くようになったのでしょうか?」 「そう、ですね。授業も、受けてるみたいですよ」  女性は安堵の表情を見せた。  焔が登校しているという事実もさることながら、灯理が学校の先輩という立場なのに安心したように。 「あの、どちら様でしょうか?」  今度はこちらが尋ねる番である。 「あうっ。あの……。先日あなたがこちらで焔と食事してるのを見かけて。でも、焔は今更私なんか、迷惑でしょうから」  女性は僅かに動揺を見せると。 「す、すいません」  そう言い残して振り返ると、足早に立ち去って行ってしまった。  世間は何かと忙しく回っていて、すれ違うだけで終わる縁も多いこの頃なのだけど。気がついてしまった他人の恐れや不安を、放っておくのもなかなかできない。灯理はそんな女の子である。後ろから声をかけた。 「あの!」  女性は立ち止まって振り返る。 「何か困ったことがあったら、双桜学園復興部まで、来てください」  女性は、丁寧に一礼だけすると、そのまま再び振り返って立ち去っていった。  灯理の右眼に、彼女にしか視えない様々な情報が高速で明滅し、流れていく。これは、以前焔が推測したようにコンタクトレンズ型デバイスの使用によるものなのか。  自身の右眼で撮影した先ほどの女性の姿を、データベースと照合すると、意外な画像と一致する結果になった。 (三次元(リアル)の人じゃなかったのかな?)  女性の姿は、焔が先ほどノートに描いた、キャラデザの少女の画像と一致したのである。  心持ち、焔が描いた二次元少女の方が、柔らかく微笑んでいる。  日常を生きながら、日常の綻びに敏感なのは、灯理の「街アカリ」としての経験値ゆえなのだけど。灯理は新たな事件の予兆を感じ始めていた。
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