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「そのうち小学校が卒業で、もう毎日灯理には会えなくなってしまう。そんなことを思っている頃、震災が起きた。本震当日の夕方、くらいか。連絡がついて俺の家族はとりあえず無事と分かった頃、ラジオの情報が徐々に入り始めて、ことの他大きな事態だと分かってきた。その時だ。俺は、数度だけ訪れたことがあった、灯理の家に向かって走り始めていた。
道中。電源が入らない自販機。消えた信号。曲がった電柱。いくつかの崩れた建物の横を通り過ぎる頃には嫌な予感がしていた。案の上で、灯理の家は倒壊していた。
幸いなことなのか、あの混乱の中、既に消防隊による救助が始まっていて、もう周囲が暗くなる頃だったか。灯理は助け出された。その時、ストレッチャーで運ばれる灯理に俺が声をかけたから。灯理はその時の記憶を何か混同してるんだと思う。左腕の他に、目も傷ついていたから、周囲の状況もあまりよく分からなかったんだろう。灯理を助けたのは俺じゃなくて、消防員のおじさんだ。本当のヒーローだ。俺はただ、見てただけだ」
そこまで淡々と語った悠未の話を聞いて。
その時の悠未の気持ちが、灯理の気持ちが、自分の中に入り込んでくるようで、焔は黙り込んでしまった。
描きたかったのに、描けなくなった。
守りたかったのに、守れなかった。
子供の頃は、そんなこと、当たり前にできる自分になれる気でいたのに、なれなかった。
若年にして、夢は一度破れている。
焔も同じだ。
この地方の沢山の同年代も、同じだ。
ただ、そんな昔の理想が壊れてしまった後にどうするか。そこが、悠未と灯理は焔とちょっと違う。
彼・彼女は『街アカリ』になったのだ。いかに本人が否定しようとも、それは焔にとって「ヒーロー」的な何かだった。
(やっぱり、強い人達だよ)
焔なんて、どうすればイイのか分からないまま、混乱し、何もかもままならず、時間だけが過ぎてしまったというのに。
「灯理、よく『あえてスマイル』って言うだろ?」
悠未がぽつねんとつぶやいた。
「ああ」
「俺も笑いとか、大事だと思ってるんだ」
「そうだな」
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