第14節「代役(バックアッパー)VS御曹司、誰のために」

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(小学生くらいじゃないか)  今の焔の実力だと、このくらいの相手がふさわしいという祈の判断だろうか。  向かい合うと、女の子は丁寧に一礼した。  黒髪をサイドテールで束ねて、イキイキとした瞳をしている。 「っしゃ」  積極的なやる気を見せつつ、先ほどの祈との稽古から学んだ焔だったので。 (俺も返し技でいこう)  組み合った瞬間、俊敏に一本背負いの体勢に入る女の子に対して、焔はさっそく裏投げで返そうと、回転する女の子の体を抱きとめた。しかしである。 (あれ)  女の子の引き手が、焔が想定していたよりも強い。めっちゃ強い。裏投げの体勢に入って腰を落としていた焔ごと、持っていかれる。  やや強引ともいえる一本背負いをくらって盛大に一回転した焔は、かろうじて受身を取る。  そして、自分の作戦を反省する間もなく、女の子は投げから流れるような動作で、寝技に入ってきた。  なんとか、いわゆる「亀」の体勢になって防御を試みる焔であったが。  あっという間に(えり)を掴まれると、そのまま畳の上を女の子とゴロゴロと数回転。  気が付けば、襟締めの形で決められてしまっていた。 「ギブ。ギブッ」  女の子の腕をタップして降参を伝える。危うく、意識が遠のく所であった。  女の子は一礼すると、まだまだ力が余ってるといった風情で、次の乱取りの相手を探しに歩いていく。 「いやー、パワータイプの女の子だったね」 「小学生が絞め技使ってくるとは思わなかったっス」  一旦畳の外に出て、祈と並んで稽古中の人々を眺める。確かに、色んなタイプの人達がいる。  その中でも特に焔の目にとまったのは。 「なんだ、ありゃあ」  年のほどは三十代前半。身長は190センチほど。  道着の上からでも、鍛え抜かれた分厚い筋肉を纏っているのが分かる。  黒髪で短髪の美丈夫で、目つきは鋭い。
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