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第15節「この命儚いとしても」
自由稽古の時間が終わって館内に設置されているシャワーを浴びた後、焔は外のベンチで風に吹かれていた。周囲はもう暗くなってきている。
寒い季節だ、なんて思っていたら、後ろから首筋に温かい何かがあてられた。
「先輩の奢りだよ」
「祈さん」
差し出された缶コーヒーを受け取る。
「焔君は黄昏てるのが絵になるねぇ」
「それ、褒めてないっスよね?」
祈は並んでベンチに座ると。
「特別な人間。いわゆる『スーパーヒーロー』っているじゃない? 最終回にはラスボスを倒して、世界を救う的な? 焔君の世代だとどんな感じ」
子供の頃に観ていた、日曜朝の変身ヒーロー番組の名前をあげてみた。
「イイねぇ。僕の頃は」
すると祈は、さらにその数年前に同じ時間にやっていた番組名をあげた。
「ただあれから何年か経って、僕らは気づき始める。中ボスにも満たないその辺りの雑魚敵に勝てなかったり。搾取を前に何もできなかったり。どうも、自分は特別な『スーパーヒーロー』にはなれないっぽいぞ、と」
「『街アカリ』は、ヒーローっスよ」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。ただ、僕は、僕らは、か。ラスボス倒したり、世界を救ったりはできないよね」
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