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第16節「奈由歌(ナユカ)・登場(第二章・了)」
翌朝。焔は気分転換に通学路を変えてみた。
悠未のこと、灯理のこと、祈が話していたこと。じゅんぐりと頭の中を様々なものがめぐっている。
(いずれにしろ、俺はまだ何もできねぇ)
それでも、今朝、変わっていたこと。「この街」で生きてきたなら「真のヒーロー」と「偽物のヒーロー」の意味が分かるという祈の言葉を聞いたからか、いつもより、街の隅々まで目がいくようになった。
自転車屋さんは早朝から店を開けて通学途中に足に不備が生じた学生たちを助けていたし。
この時間から、ここに来れば食べ物が買えるよ、と電気がついているコンビニエンスストアは頼もしかったし。
出勤に向かう人々が乗る自動車の駆動は、力強く感じられた。
自分の側の見え方が少しだけ変わると、それに応じて外の世界の、新しい部分も見えてくる。
だから、ということなのか。街角にて。いつもと違う「何か」が焔の目に入ってきた。
「いやいや」
最初はそう漏らすしかなかった。
ゴミ捨て場に人間が横たわっていたのだ。
すわ死体か。人形か。いや生きてるか。
様々な思考が巡ったが、酔ったおじさんが路上で酔いつぶれているとかはたまにあると思い至り、生きてる説に傾いてゆく。
ただし、横たわっているのはおじさんではなく少女であった。胸が、上下している。
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