第16節「奈由歌(ナユカ)・登場(第二章・了)」

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(息はあるな)  もう、立ち止まってしまった。  ゴミ袋を枕にして眠る少女は、銀髪ツインテールで、長い(まつげ)をしている。異国の女の子なのだろうか。あどけない顔立ちで、年齢は焔と同じくらいに思える。  身に着けているのは、ロリータ風のファッションというのだろうか。  ネイビーを基調としたいわゆるレジメンタルジャンパースカートを纏っていて、胸の大きなリボンが印象的。スカートから、オーバー二―ソックス、リボンがついたシューズに至る。  絵本の中から出てきたような女の子には、「天使のような」という形容が当てはまる。本当に何故、ゴミ捨て場にこんな聖なる存在が。  今からでも立ち去ることはできたのだが、焔の心に過ったのは。 (そりゃ、祈さんの言うように、特別な人間になんてなれないかもしれないけれど)  それでも、人間として、もとい例えば。 (悠未や灯理さん、祈さん、それに母さんや姉ちゃんだったら、見過ごしたりはしないだろう)  焔は思い切って声をかけた。 「あのー。大丈夫ですか?」  少女からは返事がない。かわりに、寝返りをうって、軽く体を伸ばす反応が得られた。  焔はしゃがみこんで、今度は少女の肩に触れて、軽くゆすった。 「大丈夫ですか? 救急車とか呼びますか?」  ついに、少女はパチりと瞳を開いた。正面から見つめ合う形になる。 (オッドアイだ)  右目が黄色で、左目が緑色である。本物を見るのは初めてだった。 「誰じゃ?」  キュンと脳に抜ける、「アニメ声」を少女は発した。  こちらの精神が根底からトロけていきそうな声。  何かヤバいと焔が感じると、今度は少女はよろよろと両腕を伸ばして、膝立ちだった焔に抱きついてくる。そのままバランスを崩して、二人でその場に横たわってしまう。 「愛が、愛が足りない~」  少女は焔の首筋に唇をあてると、ビクビクと震わせて、何かを吸うように動かした。  本当に愛が。もとい、何かエネルギーのようなものが吸われていると感じた焔は、この訪れた異常事態の中、ようやく我に返り、両腕で少女を引きはがした。 「なんだ!? あんた!?」
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