3人が本棚に入れています
本棚に追加
(息はあるな)
もう、立ち止まってしまった。
ゴミ袋を枕にして眠る少女は、銀髪ツインテールで、長い睫をしている。異国の女の子なのだろうか。あどけない顔立ちで、年齢は焔と同じくらいに思える。
身に着けているのは、ロリータ風のファッションというのだろうか。
ネイビーを基調としたいわゆるレジメンタルジャンパースカートを纏っていて、胸の大きなリボンが印象的。スカートから、オーバー二―ソックス、リボンがついたシューズに至る。
絵本の中から出てきたような女の子には、「天使のような」という形容が当てはまる。本当に何故、ゴミ捨て場にこんな聖なる存在が。
今からでも立ち去ることはできたのだが、焔の心に過ったのは。
(そりゃ、祈さんの言うように、特別な人間になんてなれないかもしれないけれど)
それでも、人間として、もとい例えば。
(悠未や灯理さん、祈さん、それに母さんや姉ちゃんだったら、見過ごしたりはしないだろう)
焔は思い切って声をかけた。
「あのー。大丈夫ですか?」
少女からは返事がない。かわりに、寝返りをうって、軽く体を伸ばす反応が得られた。
焔はしゃがみこんで、今度は少女の肩に触れて、軽くゆすった。
「大丈夫ですか? 救急車とか呼びますか?」
ついに、少女はパチりと瞳を開いた。正面から見つめ合う形になる。
(オッドアイだ)
右目が黄色で、左目が緑色である。本物を見るのは初めてだった。
「誰じゃ?」
キュンと脳に抜ける、「アニメ声」を少女は発した。
こちらの精神が根底からトロけていきそうな声。
何かヤバいと焔が感じると、今度は少女はよろよろと両腕を伸ばして、膝立ちだった焔に抱きついてくる。そのままバランスを崩して、二人でその場に横たわってしまう。
「愛が、愛が足りない~」
少女は焔の首筋に唇をあてると、ビクビクと震わせて、何かを吸うように動かした。
本当に愛が。もとい、何かエネルギーのようなものが吸われていると感じた焔は、この訪れた異常事態の中、ようやく我に返り、両腕で少女を引きはがした。
「なんだ!? あんた!?」
最初のコメントを投稿しよう!