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灯理と悠未が復興活動で通い慣れた仮設住宅地区に辿り着くと、問題は意外なほど早く解決した。磯山のおじいちゃんの入れ歯は、すぐに見つかったのだ。
「おじいちゃん。少し認知症の症状が出てきてるかも」
「まだそうとも言えんさ。あのくらいのうっかりは、ご高齢の方にはわりとある」
磯川のおじいちゃんの入れ歯は、洗面場の横にあったコップに、入れ歯洗浄剤に浸かったままになっていた。
その後和やかに談笑して別れたけれど、灯理としては不安も過る。
磯山さんも、一人で色々できなくなった時に、頼れる家族は遠くにしかいないという人だから。
とはいえ、高齢化の問題は一朝一夕で灯理達にどうこうできるものでもなかった。
とりあえず本日の活動は一区切りかと思っていたら、事件は思わぬ所から転がってくるもので。
一ブロックほど地区の出口に向かって進んだ所で、見知った顔を見つけた。あちらも気づいたようで、仮設住宅の壁を塗装していた少年が脚立から降りてくる。
「焔君、またアート?」
まだ発展途上の身長に、金髪を乱している。一瞬生来のものかと感じさせる自然な色だが、染めたもので、彼自身はこの国にルーツを持っている。
鋭い眼差しが備わっている様子は、一昔前の「不良」というより「アウトロー」を標榜している感じ。
いわゆる優等生・普通の生徒とは違うこういう雰囲気の男子は灯理が中学の頃も教室のスタンダードからは外れた辺りに少数いて、意外と女子に人気があったりしたなぁなどと思い出したり。
服装も上下とも黒がベースで、シルバーアクセサリをつけてたりする。
少年とは、何度か仮設住宅地区に通ううちに面識ができていた。
三つ年下で、灯理達と同じ双桜学園の中等部に所属している子だが、最近は学校には通わずよくこの地区に来ている。
「灯理さん、こいつは?」
くいと顎で灯理の隣で住宅の壁面に描かれた絵を見上げている悠未を指す。
「灯理と色々復興関係の活動をやってる悠未だ。イイ絵だな」
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