3人が本棚に入れています
本棚に追加
第22節「祈(イノリ)という人間」
「御曹司・獅子堂光、あいつは完全な勝ち組さ」
道中。奈由歌に向かって祈は語り始めた。
「今話題の経済格差における勝ち組ってだけじゃない。生物としての勝者さ。沢山愛人をはべらせて、きっともう何人か子供もいるよ。繁殖。生物の目的さ。彼のような勝者の遺伝子が、世界には残っていく。それに比べて僕はどうだ。僕という個体の存在意義さえ、世界に十分に刻めないまま、みんなの半分の時間で消えていくんだ。これではますます、『ここではない、どこか』への憧れを募らせるしかないね」
「イノリ。時々、その話してるな~。なんじゃ? その『ここではない、どこか』っていうのは、流行の『VRMMO』とか『異世界転生』とか、そういう話なのか?」
雪降る街を、祈と奈由歌は並んで歩いている。二人の距離は、かなり近い。白色が、舗装路の表面を覆い始めている。
「いいや。僕が言ってるのは何と言っても『三島由紀夫』。そして『川端康成』。そういう話さ。『藤村操』もイイね。悠々たる哉天壤ってね」
「あう~。それは文学者? よくわからないな~」
二人は、焔の姉・真雪との待ち合わせ場所へと向かっている。
最初のコメントを投稿しよう!