秋のサナギ

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 椅子から立ち上がり、雄太が自分の分の食器をお盆ごと持って、トレイ返却口まで歩いて行く。空いた席の隣には、真壁がいた。 「お前さ、なんでいつも俺たちが食べてるところに来るの? 他に友達いないわけ?」  ふたりきりになったとたん、栄貴は意地の悪いことを言ってしまった。ふつうの人間なら言いたくても我慢して言わない。でも自分は我慢できない。  ――仕方ないだろ。俺はずっとこうだったんだ。小さいころから可愛いカッコいいってちやほやされて。こっちが何もしなくても勝手にあっちが何でもしてくれた。優しくしてくれた。誰も俺を怒らなかった。窘めなかった。  空気を読んで話すようになる中学になってから、栄貴は同性に嫌われるようになった。平気で他人の傷つけることを言う、約束を破る、意地の悪い態度を取ると陰口を叩かれ敬遠された。女は違う。栄貴の容姿に吸い寄せられるように近づいてくる。  沈黙の後、真壁がおずおずと口を開いた。 「ただ、松本くんと話がしたくて……楽しいから。迷惑かな」 「別に」  迷惑だと肯定して追い払ったらきっとスッキリする。でもこのことが雄太にバレたら幻滅されるかもしれない。  ――幻滅されるのが怖いのか? 俺は。  違う違う。そんなんじゃない。  また一人で葛藤が始まる。こんなつもりじゃなかった、と後悔の念に襲われる。     
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