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大学が終わった後、栄貴は帰らずに、キャンパス内のベンチに座って雄太を待った。スマホにダウンロードしている音楽を聴きながら、教科書を読む。一時間、いや、二時間かかるかもしれない。でも終われば、校門の近くのここは必ず通る。雄太とアパートまで一緒に帰ろう。最近寒くなってきた。コンビニでおでんでも買って。
十一月の夕方は寒い。吹く風も冷たくて乾いている。頬が引き攣った感じがする。
栄貴はすでに冬用のコートを着込んでいた。もうオータムコートだと薄い。寒いのだ。
通り過ぎる学生の足元には、黄色く色づいた銀杏の葉が落ちている。彼らは躊躇することそれらを踏みしめて歩いて行く。
ぼんやりと、風で揺れる木枝を眺めていると、スマホが急にぶるぶると振動した。雄太からのLINEだ。
『ごめんサークルの飲み会どうしてもでなくちゃならなくなった今日は行けない』
急いで打ったのだろう。一切絵文字がなかったし、スタンプも押されていない。
はあ、と一つため息を吐いて、栄貴はベンチから立ち上がった。飲み会なら仕方ない。サークル内でも付き合いは大事なのだろう。栄貴はサークルに入っていないから、飲み会の大切さが分からないが。
喉が渇いた。少し歩くが、キャンパス内にある自販機で、他より十円安いコーヒーを買って帰ろう。そう思って、校門とは反対方向に歩こうとしたときだった。
前方から、楽しそうに喋る雄太と真壁が歩いてくる。周りには人が誰もいなかった。サークルで飲みに行くなら、他にも一緒に歩く人がいるはずだ。
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