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栄貴は咄嗟に、銀杏の木の陰に隠れた。彼らから十メートルほど距離を開け、後をつける。
――まさかホテルにでも行くんじゃ。
疑念が栄貴の頭に浮かんだ。
――いいじゃん、べつに。ホモ同士で仲良くすればって言ったじゃないか、俺は。
頑張って強気になる。でも崩れた。
彼らが向かった先――それが、豪華なライトアップで有名なカップル向けの水族館だと知ったとき、栄貴はたしかに、真壁に対し敗北感を覚えた。
ふたりが映画館に入ったのなら、こんなにショックは受けなかった。ラブホテルでも、ここまで落ち込まない。
初々しい付き合い初めのカップルが行く場所だからだ。
栄貴は雄太と、こんな場所に来たことがない。行きたい、と雄太が何度か誘ってきたことはあるが、恋人じゃないんだから、と栄貴は断った。
雄太とは、大学と栄貴のアパートでしか交流をしてこなかった。話はしたけれど、どんな話をしたか覚えてない。大した話はしていないということだ。
『水族館で飲み会があるなんて変わってるな』
皮肉を込めてLINEのメッセージを打つ。が、すぐに文字を消した。
責めてどうする? みっともない糾弾のメッセージを送っても、自分が惨めなだけじゃないか。
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