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「そうだな――栄貴といるみたいに興奮することはないよ。でも、優しいんだ」
「俺は性格悪いもんな」
自虐的に言っても、雄太は否定しなかった。
「太ったからどうのってわけじゃない。なんか――太って俺の反応を見る感じが、嫌だって思った」
実は悩んでいた、と雄太が続けた。今日、このアパートで栄貴のものを銜えて、やっぱり興奮するようであれば、真壁と付き合うのはやめようと。
「気持ちも体も、離れてるんだ。ごめん」
大きく腰を折って、雄太は数秒静止した。そして上体を戻す。
「もう、大学でも近づかないようにするから」
一方的に言ったあと、雄太は玄関に向かった。一度も振り返らない。未練なんて微塵もないようだった。
「なんで謝ってんの? 別に俺は、お前と付き合ってるなんて思ってなかったよ」
栄貴の言葉が、虚しく室内に響く。雄太は返事をしなかった。この科白を、栄貴の強がりと取ったのか、本音と取ったのかは、分からない。
バタンと玄関のドアが閉まる。
栄貴は、股間を自分で拭った。いつもは雄太の仕事だった。でも彼はいない。
「最初から顔と体が目当てだったんだもんな」
ふつうの声が出た。みっともなく泣いたりしていない。大丈夫。
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