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秋のサナギ
講義が始まる十分前。
栄貴(えいき)の前列の席に、長袖のニットを着た女の子が座った。
栄貴は教室内全体をざっと見渡した。一番後ろの席なので俯瞰してよく見える。
マンモス大のせいか、工学部の割に男女比が七対三ぐらいで、女性の率が高い。女子だけで固まったグループの中に、自分の元彼女の後ろ姿を発見し、今度は男だらけのブロックに視線を転じた。
やっぱりこの時期は薄手の服が多い。なかには半袖もいる。さすがに寒いんじゃないかと思うが、着ている本人は平気らしい。友人たちと身振り手振りで快活に喋っている。
栄貴は冷え症だ。ロングTシャツを着たうえに、起毛のパーカーを羽織っている。これぐらいがちょうどよかった。
「となり座っていい?」
低いけど明るい声が、お伺いを立てて来る。珍しい。いつも栄貴の隣に座りたがるのは女の子がほとんどだ。
栄貴は顔を上げ、「どうぞ」と呟いた。
「ありがとう」
この返しも珍しい。男の場合、ふつうは「どうも」で終わりだ。
隣に座った男を横目に見る。なかなか優れた容姿をしている。黒髪、高い鼻、好奇心旺盛そうな大きな目、口角の上がった肉感的な唇。
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