25人が本棚に入れています
本棚に追加
寿美代殿は挨拶すると、しずしずと出ていった。
嫌な予感がする。
兄様を問い詰めるため、表に出て、裏に回ろうとした。
(家に上がるより早い)
そこで、また女。
危うく、ぶつかるところだった。
「失礼しました。急いでいたもので。」
俺が頭を下げても、女の方は頭は動かさず、着物を正して言った。
「いいえ、よいのです。私も慌てていたもので。」
目がつぶらで、鼻が少し丸い、童顔の女だった。
口につけた紅が野暮ったい。
野暮ったいと言えば、着物もだ。
いいもんに違いないが、なんだか似合っていない。
縹色の地味な着物だった。派手な顔には不釣り合いだ。
目の前の女が誰なのか、ここまでで察したが、いきなり問い詰めるのも無礼なので、一応尋ねた。
「私はこの家の者ですが、何ぞ、こちらにご用でしょうか?」
「今、新吉様はいらっしゃいますか?」
やはり、山内様の御内儀か。俺より年下ではないだろうか。
そこへ、兄様がのこのこ出てきた。
「菊様ではございませんか!あれ?先の声は?」
こんなところに現れるはずのない女に、兄様は軽く驚いていた。
「新吉様!大変にございます!旦那様に私達の関係がバレてしまいました!」
「なんだって?!」
予想もしないことだったようで、兄様は狼狽していた。
最初のコメントを投稿しよう!