不相応な恋

9/13
前へ
/214ページ
次へ
「ずっと仕えていてくれていたから、信頼してたのに、侍女が告げ口したのです。」 寿美代殿のことだろうか。 御内儀は、忌々しそうに言った。 「と、とりあえず、狭くて汚いところですが、お上がり下さい。お話はそれからで。」 兄様は御内儀を座敷に上げた。 俺は御内儀に座布団を敷いてやった。 外から誰か来るかもしれないので、かまちに腰かけて、話に耳を傾ける。 「菊様、言いましたよね? 私はもう家内がおります。去年まではお互い独身でしたから、身分差こそあれ、構わなかったと思っています。 そして、山内様にバレたらどうなるかもお話しましたよね。 だから、お会いするのは控えていたのに。」 あれ?密通してたわけじゃないのか? 「でも、結局昨日は会ってくださったではありませんか。」 『会ったんか!』 思わずツッコミそうになるのをグッと抑える。しかも、昨日かよ。昼間いなかったのは、やはり密会していたからか。 「私ははじめから嫌だったのです。あんな暑苦しい一回りも年上の男に嫁ぐなんて。」 「私は、山内様は若い御内儀によくなさっていると聞きましたよ。 しかし、どうするのですか。冷たいですが、離縁なさっても、私の家には迎えませんからね。 ……なんだかんだで、私は家内を一番、……その、大事に思っているのですから。」 その言葉に、少し兄様を見直した。 何も考えずに、女にヘラヘラしていたわけではなかったのだ。 だが、御内儀にしてみれば、面白くない。 「では、私は帰って、山内に手打ちにされるしかありませんわね。」 全くめんどくさい女だ。武家の女はこんなもんなのか? 渋々助け舟を出す。 「横から失礼致します。ご内儀より先に、寿美代様とおっしゃる女中様がおいでになりました。女中様は、実家ではなく、兄上様のお屋敷にお隠れくださいとおっしゃってましたが?」 なぜか俺が御内儀に睨まれた。
/214ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加