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「ずっと仕えていてくれていたから、信頼してたのに、侍女が告げ口したのです。」
寿美代殿のことだろうか。
御内儀は、忌々しそうに言った。
「と、とりあえず、狭くて汚いところですが、お上がり下さい。お話はそれからで。」
兄様は御内儀を座敷に上げた。
俺は御内儀に座布団を敷いてやった。
外から誰か来るかもしれないので、かまちに腰かけて、話に耳を傾ける。
「菊様、言いましたよね?
私はもう家内がおります。去年まではお互い独身でしたから、身分差こそあれ、構わなかったと思っています。
そして、山内様にバレたらどうなるかもお話しましたよね。
だから、お会いするのは控えていたのに。」
あれ?密通してたわけじゃないのか?
「でも、結局昨日は会ってくださったではありませんか。」
『会ったんか!』
思わずツッコミそうになるのをグッと抑える。しかも、昨日かよ。昼間いなかったのは、やはり密会していたからか。
「私ははじめから嫌だったのです。あんな暑苦しい一回りも年上の男に嫁ぐなんて。」
「私は、山内様は若い御内儀によくなさっていると聞きましたよ。
しかし、どうするのですか。冷たいですが、離縁なさっても、私の家には迎えませんからね。
……なんだかんだで、私は家内を一番、……その、大事に思っているのですから。」
その言葉に、少し兄様を見直した。
何も考えずに、女にヘラヘラしていたわけではなかったのだ。
だが、御内儀にしてみれば、面白くない。
「では、私は帰って、山内に手打ちにされるしかありませんわね。」
全くめんどくさい女だ。武家の女はこんなもんなのか?
渋々助け舟を出す。
「横から失礼致します。ご内儀より先に、寿美代様とおっしゃる女中様がおいでになりました。女中様は、実家ではなく、兄上様のお屋敷にお隠れくださいとおっしゃってましたが?」
なぜか俺が御内儀に睨まれた。
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