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「『和泉式部日記』?」
売り物を確認していると、荷の中に何故か本が混じっていた。
「兄様か?」
「ああ。銭がねえっていうから、そいつと交換してやった。」
「ふうん。どうせ相手は美人だったんでしょ?」
「たはは、徳次にはかなわねえな。」
兄様は帳簿を見るのをやめて、空笑いした。
俺たちはとある町にいた。少し西へ行けば、小さな城下町がある。
大きな川が近くを流れ、たくさんの人が行き交いとても賑やかだ。
この町の問屋とはすっかり懇意になった。今回も商品が早く捌けそうで嬉しい。
景気がいいのは何よりだ。
「そういや、兄様、昼間はどこにいたんです?」
「ああ、ちょっと野暮用でな。何かあったか?」
「いえ、何も。どっかで女に声をかけてたんじゃねえかと思って」
「いい加減にしろよ。俺もそんなに女に見境なくねえよ」
頭を軽く小突かれた。
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