不相応な恋

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俺たちは、正確には商人(あきんど)ではない。 田植えや稲刈りのような繁忙期には百姓に戻る。 そして、普段は、農産物や糸、竹細工などを町で売り、村に現金をもたらす。 田畑で採れたもんだけでは生きていけない。 たとえば、具合が悪くて、医者に診てもらおうとしても、治療代が芋や粟じゃ、まともに取り合ってもらえない。 金は必要なのだ。 爺様の頃は、たくさんの荷を背負って、町へ下り、方々を売り歩いていたそうだが、最近は、人を集めて商品を運び、町の商家に卸すようになった。 効率がいいうえ、売り上げも伸びている。 おかげで、機械を買って、織物も沢山作れるようになってきた。 父様(ととさま)の努力と工夫のおかげだったが、最終的に今のやり方を完成させたのは、兄様だった。 兄様は要領がよくて、気さくで、交渉がうまい。 ぽんぽんと話を運び、まとめちまう。 自分に無理なもんは、躊躇せず人に頼るし、危なければ、未練なく捨てられる。 かっこつけすぎないところが、人を惹き付けるようなのだ。 おまけに器量もよくて、にこっと笑えば、周りの女どもが色めき立つ。 背が高くて、目が切れ長で、鼻筋が通っていて、役者絵から抜け出たみたいとまで言うと、言い過ぎかな。 ともかく、弟の俺から見てもいい男だ。 それに引き換え、俺は、背はどちらかと言えば低く、痩せていて、目がギョロッとして、愛想がない。 心配性で、グチグチ言っちまうとこは、男らしくなくて情けない。 同じ両親から生まれて、育てられたのに、どうしてこうも違うのだろうか。
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