不相応な恋

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売れ残りの商品の確認が済み、俺達は座敷にあがった。 倉庫も兼ねて、一軒の家を借りている。 手持ち無沙汰に、さっきの本をぱらぱらとめくった。 紙がザラザラとして安っぽいが、挿し絵はいい感じで入っていた。 「和泉式部って誰だっけ?」 「お前、勝手に持ってきやがって。百人一首にあるだろ? あらざらむこの世の外の思ひ出に    今ひとたびの逢ふこともがな 歌が上手くて、男にモテた女房様だよ。」 「へえ、さすが伊達男。歌を覚えてるとは。百人一首なんて、俺はすっかり忘れちまったよ。」 「へっ、たしなみだよ。アホだと思われちゃ、商談はできねえぞ。」 兄様は、俺にからかわれたのが気に食わなかったようだ。 そっぽ向いて、何か書いていた。 俺は、本を少しだけ読んでみることにした。 ある日、和泉式部の亡き恋人の弟である(そち)の宮が、小僧に橘の枝をもたせる。 女は、小僧と話をしているうちに、宮のお声を聞いてみたいと思い、歌を詠む。 “薫る香によそふるよりはほととぎす   聞かばや同じ声やしたると” それに対し、帥の宮はこう返した。 “おなじ()に鳴きつつをりしほととぎす   声は変らぬものと知らずや” このやりとりをきっかけに、二人はお互いひかれ始める。 しかし、中流貴族で尻軽と噂されている女と、おかみの御子との身分違いの恋、なかなか思ったようにいかない。 それで、じれったいやり取りが続く。 アホらしくなってきて、本を閉じた。 ……揃いも揃って兄弟で、同じ女を好きになるなんてな。 どうせなら、悪いヤツをえいやあとやっつける話を読んで、スカッとしてえな。 そのまま頬杖をついて横になっていると、兄様が声を掛けてきた。
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