不相応な恋

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「おい、徳次。お前はいい人いねえのか?」 思わぬ問いかけに、驚いて半分身を起こした。 「い、いねえよ。」 「乾物屋のおみっちゃんとか、気立てがいいし、かわいいじゃねえか。時々話しかけられてんの、知ってるんだぞ。」 さっきとからかう立場が入れ替わって、兄様は嬉しそうだ。 「おみっちゃんは、いい娘さんだが、一緒になりてえとは思えねえよ。」 悔しくて、どうにか言い返そうと思うが、こういう話は苦手で、じんわりと手が汗ばむ。 「夏祭りには帰ろうな。こっちに出てきてる奴らも楽しみにしているし。ひょっとしたら、お前の帰りを待ってる娘もいるかも知んねえし。」 「兄様!」 兄様は、(わっぱ)みてえに愉快そうに笑った。 結局、兄様には勝てねえ。 俺達の村では、盆とは別に村の神様の祭がある。そんときゃ、神様の下さる縁だから、無礼講で、好きな男や女を口説いていいことになっている。 そう言っても、口説きたい時に、口説きたいやつは口説くし、もう好き合ってるもん同士、契を交わし直したりもするから、まあ、形ばかりの村行事だ。 はるか昔は、懸想する相手と歌を詠み交わしたり、雅なこともしてたみたいだけど。 兄様はその祭で、イネという美人を口説き落とした。 娘がいなかったからか、両親は嫁を娘のようにかわいがった。 いや、本当のところは、後ろめたさもあったのかもしれない。
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