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慌てて外から表にまわる。
表にいたのは、どこかのお屋敷の女中のようだった。
髷の結い方も着物も地味だが、品があり、きっちりしている。
歳は若く、目尻が上がっていて、鼻は小さく、ほどよい美人で真面目そうだ。
「いかようの御用でございましょうか。」
女は少し汗をおさえ、姿勢を正して言った。
「私、藩のお役方山内権之丞様が奥にお仕えしております、寿美代と申します。突然不躾で恐縮に存じますが、新吉様はどちらに?」
声がよく通る。お武家様の女中様が兄様になんの用事だろう?
「新吉は私の兄にございます。私は徳次。兄でしたら、裏におりますが、呼んでまいりましょうか?」
「あ…、いえ、あの、・・・・・・私は奥様がいらしていないか訊ねに来たのです。」
寿美代殿はさりげなく、辺りをチラチラと訝しげに見ていた。困ったお嬢様でも探す姉やのようだ。
「すみませんが、お武家様の御内儀様が来るようなところではございませんので。しかし、兄の名が出たということは、よもや愚兄が何ぞ失礼つかまつりましたでしょうか。」
寿美代殿は答えるのを迷っていた。俺がジッと見ているので、余計に困っている。
「・・・・・・もしも、私の他に山内の者が来ましたら、新吉様はいないと言った方が良いかと。
それから、奥様がいらしたら、ご実家ではなく、兄上様のお屋敷にお隠れ下さいと、寿美代が言っていたとお伝えしただけますか?
もう、私のことなど、信じてはくれないでしょうけど。」
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