29(承前)

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 テルが口の端から吐き捨てるようにいう。 「ああ、あんなエウロペとのあいの子に引けをとるもんか」  テルとジョージは数々の修羅場をともにくぐった親友ではあるが、意識の底には外国人への差別があるのだろう。この訓練生以外の進駐軍ではさらにジョージへの風当たりはさらに強いはずだ。あれほどの才能をもっていても、今後の軍人生活は決して容易に進むことはないだろう。  そう考えると、タツオの胸の奥に苦い味わいが残った。そういう意味では自分とジョージはよく似ている。父・靖男の軍規違反により近衛四家から滑り落ちた逆島家のタツオの未来も同様に明るいとはいえないだろう。  一発逆転の鍵は、「須佐乃男」のパイロットになり、来春にでも迫る本土防衛決戦で英雄的な活躍をすること以外にはなかった。半日の戦闘で数十年分の生命を一気に燃やし尽くすとはいえ、すべてを引っくり返せる可能性は残されている。
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