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タツオは濡れた砂袋のように重くなった足を、できる限り高くあげて走った。足元は砂利混じりの黒土でひどく走りにくい。指揮官として恐怖に背中を丸めるところを、チームの面々に見せることはできなかった。心のなかは恐怖と焦りでいっぱいでも、せいぜい勇気のある振りをする。進駐軍にはいってタツオも気づいていた。勇気がある振りをうまくできる兵士が、実際の勇気のある兵なのだ。振りだけでもできれば立派なものだ。
ぐんぐんと訓練最初にいた陣地が近づいてくる。もうだいじょうぶ。タツオの口元が安心でゆるみそうになったときだった。背中に衝撃が走った。銃声は着弾の後から聞こえた。もっともそのときには、タツオは身体を海老のように丸め、地面を転がっていた。
(背中に直撃。自動小銃ではなく、口径のおおきな狙撃銃の弾丸だ!)
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