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「兄さん、無事か」
タツオが叫ぶと、兄の声がススキのなかから聞こえた。
「だいじょうぶだ」
「では、兄さんがそっちの指揮を引き継いでくれ。ぼくもここからできる限りのことはする」
「了解だ」
口のなかが血の味で一杯だった。自分もサイコのように口のなかを噛んで悲鳴をこらえたのだ。まだ舌がしびれているようだが、タツオは元気な振りをして叫んだ。
「あと1時間がんばろう。そうすれば、全員に神戸牛のステーキだ」
敵陣の側で動きがあった。ざわざわと広い範囲で、ススキの銀の穂が揺れて敵兵が動いているのがわかった。
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