29(承前)

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「兄さん、無事か」  タツオが叫ぶと、兄の声がススキのなかから聞こえた。 「だいじょうぶだ」 「では、兄さんがそっちの指揮を引き継いでくれ。ぼくもここからできる限りのことはする」 「了解だ」  口のなかが血の味で一杯だった。自分もサイコのように口のなかを噛んで悲鳴をこらえたのだ。まだ舌がしびれているようだが、タツオは元気な振りをして叫んだ。 「あと1時間がんばろう。そうすれば、全員に神戸牛のステーキだ」  敵陣の側で動きがあった。ざわざわと広い範囲で、ススキの銀の穂が揺れて敵兵が動いているのがわかった。
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