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――塾の帰り道、空が暗闇へと染まる時刻、僕は何時もの帰路を歩いていた。星が煌めく夜の街路はアスファルトが敷き詰められた地面に、辺りを照らすのは電球が切れかけている街灯だけの情景。殺風景と言えば、そうなのかも知れない。
しかし、僕にとってはこれが当たり前の日常なのだ。頼り無い明かりは、余りにも申し訳程度にちらちらと点されてはいるが、普段は町長とかが管理するものなのでは無いのだろうか。
そんな思案を無駄に巡らせるより、今日出た授業をお復習(さらい)しなくてはならない。全く、何で最近の小学生は塾に行かされなければならないのか。こうして夜も暮れると言うのに、大人には危機感なんてものは無いのか。
少し位は子供の安全を考えて欲しい、何より時間はとっくに十時を示している。先程塾の教室に掛けられた時計を見てきたから何と無く時間帯は把握しているつもりだ、馬鹿げたとも形容出来ない現状が妙に虚しかった。
「月明かりの方が、明るそうなのにな。はぁっ、両親は共働きだし、どうせ帰っても一人。もう、うんざりだ……」
独り事を呟きながら、僕はフッと先週に学校で訊かれた夢についてを思い返していた。当然前々から決まってはいるものの、あの日以来そのユメを語れずにいる。あんな悲劇を目の前に、その日の自分は何時もの通り塾の帰りだったのだ。
「僕は……になりたい」
誰も居ない事を確認して、ぼそりと囁く。刹那に、突然前方に姿を現す女性が暗闇の為によく見えなかったが。彼女は確かにある言葉を口にする、思わず周りを見渡すが辺りに人気は無い。咄嗟に疲れて幻聴を聴いたのかもと思った時、女性はまだ僕と同じ歳位だと認識できた
『魔法使いになりたいの?なら、私が叶えてあげる』
「っ、誰だ!」
姿を現さない影が僕をおちょくる、恐らくはこれも幻覚か何かなのかも知れない。だけど、瞬時にあの日の事を思い出してしまい、懐いていた疑心が揺らいだ。するとそれを見計らうかのように、少女は消えていた。
何故、今になり思い出してしまったのか、あの子は。彼女はもう居ないと言うのに、未練がましくも追求してきた答は少女の両親さえも話してはくれなかった。ただ、頑なにもあれは事故死なんだと言い張るばかりで真相は何一つ明かされていない。
幼馴染だった、海月(みつき)はもう此の世には居ない事を未だに受け入れきれずにいる。
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