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有栖川海月(ありすがわみつき)と僕は家が隣で何時も遊んでいた、そんなある日に彼女は言った。将来は魔法使いになりたいと、子供ながらの可愛らしい発想に自身は思わずじゃあ僕も目指すと言ってしまった。
それが、ことの始りだとも知らずに。僕は安易に答えた事を今でも悔いている、それは雨の降る夜の日、塾の帰り道二人で仲良く傘を並ばせて歩いていた。ピンク色の無地の傘を差した彼女は、鬱陶しげにも顔にかかる雨粒を片手の平で拭っていた。
『月人へ、魔法使いになるために山に行くね。ばいばい』
最期、だとも知らずにそのコトバを知ったのは彼女が山奥で遺体になって発見された頃だ。丁度少女の手に手紙が握り締められていた、それを知った海月の両親は僕にその手紙を託して引っ越してしまったのだ。
これが、魔法使いになると語れなくなった僕の後悔なのだが、本当にあれは事故だったのだろうか。喪服に身を包んだ大人達が涙で滲んでよく見えない、そんな光景を僕は幼いながらに経験している。断片的にしか思い出せなかった、記憶はもうだいぶ薄れてきている。
「あぁ、そうだ。僕のせいで海月は死んだんだった……」
安易な言葉を言いさえしなければ、少女は今でも僕と同じ歳の流れの中に居たのかも知れない。まだ十に満たない歳で亡くなった彼女は、僕を恨んでいるだろうか、だけどもしそうなら償いとして僕も魔法使いの世界に行けたら良かった。
街路樹に差し掛かる、その道を曲がるともうじき自分の家に着く。少しだけ、寄り道をしたって別に咎める大人は居ない、ただ警察にさえ気を付ければあの日の場所に行けるだろうか。
「……海月、待っててね。僕は、必ず魔法使いになるから、そうしたら。また会えるよね?」
寂しい想いを抱きながら、両親に対する申し訳無さを抱いては僕は涙を流す。其から寄り道と称して訪れた山道を歩み、雨に濡れた髪さえお構いなしに傘も差さずに海月の居た場所を目指していた。この先には何があるんだろう、半ばそんな興味本意で進み行く。
まるで、先程の少女に導かれるように、僕は切り立った崖の前に立つ。気付けばそこから街並みを見下ろして、夜空に向けて手を伸ばしていた。一体何をしているのか、最早それさえもワカラナイままに踵を地に蹴り上げて跳んだ。
『……大丈夫?』
「っう、此処は……」
目を覚ますと、そこは不思議な世界だった。
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