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そろそろ店に戻らなければならないのだろう、鈴木が腕時計に目を落して言う。
「それで、もちわんと慎次は番なの」
風太と顔を見合わせた。
「違う。俺はベータだ」
溜息混じりに言うと、鈴木が意外そうな顔をした。オメガ性と番になれるのはアルファ性を持つ人間だけだ。解っていても直接質問されるときつい。
「へえ。慎次はアルファだと思ったよ。何もしなくても目立ってるっていうか、俺らみたいな凡人ぽくない気がする」
「そんなんじゃねえよ。実家が会社やってて、父親が社長でアルファなんだ。実際に兄貴もアルファだし。オレにもちょっと入ってるのかもな」
「ふうん。そうかねえ……」
鈴木は一瞬鋭いまなざしを向けたが、すぐににっこりと微笑んだ。
「ま、これからも凛太郎ともどもに仲良くしような。お前ら、何か困ったことがあったら相談に来いよ。出来る限り力になるから」
「ふん。行かねえよ」
「意地っ張りだなあ。じゃあな」
鈴木が踵を返そうとして、立ち止まった。にやにやと笑みを浮かべて慎次に近づき耳打ちをする。
「お前のちんこ、社会の窓から飛び出してるよ」
ぎょっとして股間を見ると、ジッパーは上まできちんと閉まっていた。頬が燃えた。顔を上げるとすでに鈴木はいなかった。
「あの野郎!」
柄にもない大声が夜空に響いた。
(続く)
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