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「よくねーよ。俺さ今年度から課長になっちゃってさあ。もう大変だよ、仕事が出来すぎちゃって」
「……それで?」
「昇進祝いしてくれるって、父さんと母さんが。お前も来ていいよ」
軽蔑の笑みが顔中に広がっていく。
昇進祝いだと?
親父の会社で楽な仕事ばかりしているくせに。
「ちょっと先だけど、五月の頭、Tホテルのフレンチレストランだ。必ず来いよ」
嫌だ。しかし言葉は出ない。
「慎次ぃ。お前がいないとつまんねえよ。からかう相手がいなくてさ」
「いなくたって、相手ならいくらでもいるだろ」
「駄目、駄目。慎次じゃなきゃ。お前をいじめるのがストレス解消なんだよ」
スマートフォンの向こうで高らかに笑う声が鼓膜に突き刺さる。
ちくしょう。
唇を噛んだ。
「一人暮らしなんか止めて早く帰って来いよお、慎次。母さんも心配してるよお」
怒りを抑える為に拳を握りしめた。
義母が心配しているだと?
あり得ない。
慎次は高松商事の社長である父と、その愛人の子供だ。慎次を養子にして手放す代わりに慰謝料を貰って、本当の母は姿をくらましてしまった。
だから義母は憎むことはあっても、心配なんてするはずがない。
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