第12話

10/10
前へ
/288ページ
次へ
 そろそろ店に戻らなければならないのだろう、鈴木が腕時計に目を落して言う。  「それで、もちわんと慎次は番なの」  風太と顔を見合わせた。 「違う。俺はベータだ」  溜息混じりに言うと、鈴木が意外そうな顔をした。オメガ性と番になれるのはアルファ性を持つ人間だけだ。解っていても直接質問されるときつい。  「へえ。慎次はアルファだと思ったよ。何もしなくても目立ってるっていうか、俺らみたいな凡人ぽくない気がする」 「そんなんじゃねえよ。実家が会社やってて、父親が社長でアルファなんだ。実際に兄貴もアルファだし。オレにもちょっと入ってるのかもな」 「ふうん。そうかねえ……」  鈴木は一瞬鋭いまなざしを向けたが、すぐににっこりと微笑んだ。 「ま、これからも凛太郎ともどもに仲良くしような。お前ら、何か困ったことがあったら相談に来いよ。出来る限り力になるから」 「ふん。行かねえよ」 「意地っ張りだなあ。じゃあな」  鈴木が踵を返そうとして、立ち止まった。にやにやと笑みを浮かべて慎次に近づき耳打ちをする。  「お前のちんこ、社会の窓から飛び出してるよ」  ぎょっとして股間を見ると、ジッパーは上まできちんと閉まっていた。頬が燃えた。顔を上げるとすでに鈴木はいなかった。  「あの野郎!」  柄にもない大声が夜空に響いた。 (続く)
/288ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1438人が本棚に入れています
本棚に追加