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屋敷を後にして、早速宗次郎が婚約指輪を買いに行くと凜乃を連れて行かれたが、凜乃心は浮かれてしかたなかった。
ぼんやりしながら指輪を選んでくれる宗次郎の横顔を見ながら、これが夢じゃないかと思い、不意に頬をつねってみる。
(痛い)
煌びやかな店内で、凜乃の指には次から次へと大きなダイヤモンド入りの指輪がはめられる。
もう一度頬をつねる。
(痛い)
「何してんだよ?」
「うん。なんか突然で、嘘みたい」
「決められないなら、俺が決めるけど。今付けてるやつは最新のデザインっていうし、綺麗だし、いいんじゃないか」
「……そうだね」
「じゃあ、これ」
ぼんやりした凜乃を見て、宗次郎が即決してしまう。
ああ、あんなに大粒のダイヤモンドなんて本当に良いのだろうか。
そもそも、婚約指輪にあんなに大粒のダイヤモンドなんて必要なんだろうか。
なにもかもがよくわからないでぼんやりしてしまうと、不意に宗次郎が綺麗な手でそっと握ってくれる。
「しっかりしろよ」
そう言ってされた不意のキスに、凜乃はまた放心状態になってしまった。
(本当にこれは現実?)
すっと離れる温もりを感じながら、半個室の店内でふたりで手を握り合って店員を待った。
(しっかりしなきゃ。そう約束したんだから)
凜乃はまた頬をつねりたくなるが、ぐっと堪えて宗次郎を見て笑みを見せた。
「薄笑いに見えるぞ。さあ、今日も帰ったら……」
宗次郎がにんまりと口角を上げて笑う。
その意味が分かると、凜乃は胸を鳴らせた。
何よりも確かな現実を突きつけられたようで赤面してしまうと俯いてしまい、思わず大粒の指輪が視界に入る。
(大きなダイヤ……)
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