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「ここまでして、どうなろうとも知らないわよ。私達が用意したレールに乗っていれば、必ず幸せになれるのよ?」
「それは違うだろ? ふたりとも幸せじゃないからお互いにお互いを裏切ったんじゃないか」
宗次郎がそう言うと応接間の空気が冷たく凍り付いた。
宗次郎の母が青ざめてさっと退席すると、父親も宗次郎を睨みつける。
凜乃はどうしたらいいのか分からなくなり、宗次郎を止めたかったが、何も思い浮かばない。
「宗次郎、気持ちは分かった。結婚も認める。凜乃さんもちゃんとした人だろうし、ふたりが幸せなら、もう何も言わないよ。ただ、もしも失敗したとあれば、私達は宗次郎を助けることはない」
「離婚するって意味?」
「そうだ」
「離婚なんてあり得ない。俺と凜乃は、子供の頃からお互いの存在を大切に思っていたし、今だって大切に思ってる。結婚したからって他の女性や男性を見ることはない」
宗次郎が言い切ると、父親は小さくため息を吐いて凜乃を見て小さく頭を下げた。
初めて頭を下げられて、凜乃は困惑しておどおどしながら頭を下げる。
「宗次郎としっかりやってください。これでも、相模家の跡継ぎなので」
「は、はい。私も頑張ります」
「支えてやってください。じゃあ、まずはお見合いを断って、妻を説得だな」
宗次郎の父親は苦々しく笑うと、凜乃の心が不意に温かくなる。
怖くて仕方なかったが、なんとか理解してくれて嬉しかった。
時間を掛ければ、凜乃の母についてもちゃんと理解してくれるような気もする。
凜乃と宗次郎の結婚について具体的な話をしたいと言ったら、ふたりが決めたことを相模家の総意とする、言ってくれ凜乃は思わず涙が溢れてしまった。
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