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「やったわ!」
凜乃がにっこりしたのも束の間。
そのブーケを持って駆け寄って行った先には、宗次郎が幼少期からお世話になっている、あの運転手がいる。
「嘘。もしかして……?」
凜乃が口元を抑えて驚きを隠せないでいると、宗次郎が耳元で囁いた。
「知らなかったのか? あの二人、最近付き合い始めたんだ」
「そういう事は早く言って! 敏子さんにはお世話になったんだし」
ブーケを振り回しながら、運転手に笑顔を振りまく敏子は確かに乙女のような可愛いらしい表情だ。
ニコニコとくっついて立ち、もはやブーケがなくとも結婚は秒読みだろう。
凜乃がしばらくふたりを見つめていると、耳元で低音で囁かれた。
「これが終われば、ふたりだけの時間だ」
「う、うん」
「イタリアでの挙式まで待てないからな」
宗次郎の艶やかな声に、凜乃はぴくんと体を震わせた。
式が終われば、今夜はこのホテルの最上階のスイートルームに泊まる予定だ。
凜乃は頬を染めながら、宗次郎の耳に囁き返す。
「これから一生よろしくお願いします。私のこと、大事にしてください」
凜乃の精一杯のお願いだ。
すると宗次郎が黙り込んで真っ赤に顔を染める。
「凜乃。今夜……くそ……」
宗次郎が熱を帯びた艶やかな瞳で凜乃を見つめるが、言葉では何も言えないようだった。
凜乃はクスリと微笑み、ブーケで沸いている女性陣を見つめてにこやかに笑みを見せた。
了
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