第一章「深い眠りについた夜に」

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 僕の素朴な質問に今まで口を開けもしなかった母はそこで初めて口を開き言った。 「さぁ、私も知らないわ」  自分で連れてきておいてそれはない。母は今だってそうだがこの頃おかしいと鈍い自分でもはっきりとわかった。元からそこまで常人というわけでもなかったが、これはさすがにまずいのではないかと思うほどに。  車内には会話がなく話をしても二言三言の会話だけ。なんとも居心地が悪い。激しい胸やけのそれと似ているような気持ち悪さに襲われていた。しばらくすると目的地に着いたのか車はある一軒の家の前で止まった。 「ここよ、今日からここで過ごすの」  そう言って母は目の前にある白い建物に指さした。 「ずいぶんと、どの家も白いんだね」 「えぇ、そうね」  そっけなく返された態度に少し腹が立ち僕は先に家へと入った。  部屋の中は案の定白く、階段や扉、冷蔵庫、テーブルなどの家具や電気製品でさえも真っ白だった。 「しろすぎ・・・」  思った事をつい口に出していた。けれど、これは誰だって言いたくなる。だが、何故だか居心地が悪いとは感じなかった。僕の後に家に入った母は何故か真っ先に二階に行き、それからしばらく経つのだが一向に戻ってくる気配がない。     
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