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私が瑞穂のことを知ったのはSNSがきっかけだった。
イラストレーター、根岸瑞穂。そう言うと聞こえはいいが、それで食べているというわけではなく趣味で活動している絵描き屋さんだ。
本業は都内勤務のOL。しかしアマチュアと言っても彼女のイラストは美しく、勢力的に活動しているのでファンも多い。
私たちが会うようになったのは、私が自主制作で小説本を作るに当たって彼女に表紙の絵を依頼したのが始まりだった。
「怜って淡白だよね。私だったら自分が掲載された本は三冊買いたいわ。閲覧用と、保管用と、永久保管用」
瑞穂はパラパラと雑誌をめくると私の小説のページを開いた。
私もちらりとそれを覗く。デジタルの文章から活字となったそれは、本当に自分がプロにでもなったかのように錯覚させた。
しかし特に感慨深いものは無い。
私は毎月この短編コンテストに小説を応募している。大賞こそ取ったことはないが、それ以下の順位なら何度か掲載されたことがある。しかし準大賞のときだって雑誌を買ったことはない。
「もうその話はいいじゃん。それより早く打ち合わせしようよ。イベント来週なんだからさ」
私はそう言うと、彼女の持つ雑誌を無理やり閉じさせた。
瑞穂がブースを出すアートイベントは、来週に迫っていた。
私も委託として彼女のイラストのブースに小説を置かせてもらう。設営案は瑞穂に任せているが、その内容や当日の搬入時間、持ち物などを擦り合わせる必要があった。
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