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店内は人が少なかったので、飲み物一杯で私たちは長々と話した。ふと窓の向こうを見ると、人々が傘を差し始めているのに気付く。
とうとう降ってきた。でも雨の方が気が楽だ。
空一面に覆われた曇り空を見ていると、すぐにあの日のことを思い出してしまう。
おおよそ段取りを確認し終えた頃、不意に携帯が震えた。
メールが来ている。反射的に時計を見ると、二十時を回っていた。私は小さくため息をつく。
「ごめん、門限だ」
「あ、もうそんな時間? 気付かなかった、ごめんね」
メールは開かなくても分かっていたが、『今どこにいますか?』という内容だった。雇っている家政婦さんからだ。答えになってはいないが、『あと三十分で帰ります』と返した。
「箱入り娘はつらいね」
瑞穂は笑うと、帰り支度を始めた。
大学生とはいえ私は来年には二十歳を迎える。そんな女性に普通、こんな早い時間の門限など設定しないだろう。瑞穂は四つ歳上だが、聞いてみると「うちは昔から二十四時過ぎても気にもされなかったなあ」と言った。
私たちは再度来週の待ち合わせ時間を確認し合い、別れた。
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