おかえりと君は

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   *  アートイベントは都内の大型コンベンションセンターで行われていた。  朝早く最寄り駅に現れた瑞穂は、細身のトレンチコートにモノトーンのワンピースを翻しアーティスト感を演出していた。  こういうイベントでは見た目の雰囲気も重要らしい。私たちは軽く挨拶をかわすと、キャリーを転がしながら入場口へと向かった。 「今日は在庫一掃したいなあ」  瑞穂がぼやきながら、机の上にイラスト集を積み重ねていく。ポストカードやキーホルダーはパーテーションの壁に掛け、数十分後にはお洒落なお店ができあがっていった。  私の小説の横には、『読』の私のページが開いて置かれた。アートイベントで小説などなかなか売れはしないのだが、確かにこうすると目立つ気がする。瑞穂のクリエイティブに対するアイディアには感服する。彼女の表紙の効果で少しくらい売れるだろうか、と思った。  やがて開場時間となり、一般客が入り込んできた。  瑞穂のブースは常連客やネットの友達が来るので常時賑わう。私はいつも通り、会場をじっと見渡しながら売り子に徹していた。 「……一ノ瀬怜さんですか?」  イベントも中盤頃、奥から追加の本を出そうとしていたところで後ろから話しかけられた。  心臓が鳴った。ゆっくりと振り返る。  ブースの前には、若い男が二人立っていた。  私ははあ、と聞こえないようにため息をつく。 「……はい、私です」 「ああ、やっぱり。僕も『読』に投稿してるんです。よく入賞してる方ですよね」  男はそう言い、少し世間話をすると、小説を買って去っていった。  
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