おかえりと君は

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   リビングに入ると、まるで鎧のようなビジネススーツに身を包んだ母が待ち構えていた。 「あなた、アルバイトしてるんだって?」  帰宅した娘への挨拶もなく、唐突にそう言った。私は目を逸らしながら鞄とコートをソファーに放り投げる。 「してないよ」 「嘘言わないで。坂井さんが見かけたのよ。日曜に並木町のスーパーで品出しをしている貴方を見たって」  ……あの家政婦さん、あの辺に住んでいたのか。  ついてないな、と思いながら言い訳を連ねていく。 「土日だけだよ。お小遣いが欲しかったの。友達と学校帰りにお茶したいし」 「お金くらい言えば渡すわよ。それより、不特定多数の人がいる場所にあまり近付かないでと言っているでしょう。すぐに辞めて」  ほら、と言い母は机に一万円札を二枚置いた。私はそれを横目に、大きくため息をつく。 「お小遣いくらい自分で稼ぐから」 「何言ってるの。あなた、もしまた誘拐にでも遭ったら――」  言葉を遮るように、私は大声を出した。 「それでも構わない!」  母が何か言う前に自室に入り、ドアを強めに閉めた。  母が私に直接何かを言うときは自分とって不利益になることがあるときだけだ。気にしているのは私ではなく、世間体。分かっていた。  ベッドに潜り込む。常にふかふかでまるでホテルのようなベッドは、毎日家政婦さんが手入れをしているからだろう。でもそんなもの、私はいらない。  私が欲しいのは……。  
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