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「さて、と」
「っ……な、何すっ……!」
「少し大人しくしていろ」
目の前の男は操の体に跨ると、喉元に触れ、すうっと指先を滑らせた。
その長い指先から黒い霞のようなものがつうっと糸を引く。
「!?」
「まだ体内に残っているな」
「な、な……なに!?」
「さっきの妖の悪意がまだお前の中に残っている」
「あ、あくい……?」
それを「悪意」だと理解するのに少し時間を要した。悪意とは意思であって物体ではない。しかし、目の前の男……いや、獣なのだろうか、その者の指には靄がかったものが確かに存在している。くるくると遊ぶようにそれを集めた男は、操の顔をじっと覗き込んできた。
「……お前、今日「なった」のか」
「?」
「まだ自覚はなさそうだな。ふむ……俺の大事な依り代が汚れているのは困る」
そう言って大きな口をにっとあげた男は耳をひくつかせて笑った。何かに似ている。この感じ……ぼうっとする頭が働かないままでいると、目の前の男の背後に何かが急に現れた。
「!?き、狐!?」
「おう、出てしまったか。失敬」
ははっと笑った男はそう言ってモフモフとした獣の尻尾を「一本」前に持ってきた。何本もあるそれは彼の背後で大きくその形を主張している。
「そう、狐だな」
「っ……」
先ほどの化け物よりは人間に近い形をしているが、これはこれで見たことのない異形の者である。操はその場から逃げ出そうと、体を起こしたが、腕に力が入らず……そして、熱をもった体に力が抜けていく。
急に体に異変を感じたのはその時であった。
「あ……ぁ……」
「ああ……そうか「初めて」だものな」
「……つ、ぐ…ぁ…っ」
操の体が熱くほてり、しんとした夜道の中で一人悶える。さっきまでの無人と同じく、近くには誰の気配も感じない。この狐めいた男と自分のみだ。
「あう……ぁ……っ……」
かすれた声が喉奥から絞り出されていく。喉がやけつくように熱く、体の奥から吐き気がせりあがってきた。
「……仕方がない」
男の体がのしりと操に乗りかかる。
「俺が「清めて」やろう」
「!?」
癖のように舌を出した男は笑い、操の胸元を弄った……。
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