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(夢だ……こんなのは、夢だ!)
バサバサと羽の音と風を切る音がする。刀を振るっているのだろうが、目を開けられない。そんな中、ミタマの声が大きく響いた。
「肝心なことを忘れていた!お前、名前を名乗れ!」
「はあ!?」
「いいから、助かりたければ、名前を告げろ!」
「!?」
意味もわからず声をかけられ、しかし、その中でも風音と羽音がつよくなっていく。目も開けられない状況の中、操は大きな声で叫ぶしかなかった。
「黒崎っ……黒崎操!」
そう叫んだ瞬間、瞼の裏側で光が弾ける。その光がゆっくりと弱まり、また闇へと戻っていく。操は恐る恐る目を見開き、そして、その光景に絶句した。
異形の鴉の屍体が積み上がっている。その山の前で、多くの尻尾がふわりと揺れる。
その九本の尻尾の主は、色違いの目を細めて操に振り返り、刀を振った。それを染めた青い「血」が、操の頬に跳ね返る。頬をどろりとした感触が伝っていくのに呆然とし、喉から言葉が出てこない。
「……やっと訊けた」
「え?」
「お前、俺以外には簡単に名乗るなよ?」
「これで、お前は俺の「依り代」だ」
そう言ったミタマは細い喉を鳴らし、操の顎を持ち上げる。
その目から逃げられないと悟った時、操はこれが夢でないと実感した。この感触は夢ではない。悪夢のような現実だ……。
そして、まるでそれから逃げるかのように、また意識を混濁の底へと沈ませていった。
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