第1話

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 男の言葉に操は唖然とした。口がパクパクと動き、そして、出たのはなんとも間抜けな声であった。 「は、はあ!?」 「お前は悪意の吸収体みたいなものだ。それを呼びこみ、吸い取り、浄化させるのに俺がこの体から悪意を取り出して食って消化する。まあ、今の現実界と意味合いは少しずれるが、「依り代」ってのはそのことだ」 「っ……」  淡々と説明する男に、先ほどの行為を思い出す。あの……性行為のようなものが、浄化だと!?羞恥からか恐怖からか、操の体はわなわなと細かく震えていた。 「その、浄化って……あれが……」  操が思い出していることに気づいているのだろうか、男は一度ため息をついて、操の胸の中心に指を立てた。 「男のΩってのは特殊な存在だ。まあ、女のΩで同じ役割のものもいるが……男のΩは特に女性男性の両方を持つ性だからな。その子宮を目指してたまったものを陰茎から吐き出すのにうまくできてる。依り代の役目にはもってこいだ。まあ、悪意の呼び込みが浅ければ、さっきみたいに胸からかすめとるのも可能。少し肺がきついがな。やり方はいろいろあるが、軽いのを胸から抜いて、奥までいったのは射精で出させるのが最善策だろう」  さっきの行為をただの方法のように言われて、あっけにとられる。  自分の体はただの人間で、先ほどの行為も一体何をされているのかわからなかった。いや、行為自体は勿論わかってはいるが、その実が何か……悪意だの妖だの言われてもピンとこないのだ。信じたくない、といった方がよいかもしれない。 「……意味が……わかんないんすけど」 「意外と理解が遅いな?」 「そうじゃない!システム的なものはわかったけど、どうして俺が!?そんなの……ありえない。信じろって方が無理だ!」 「ありえないとは?世の中、ありえないことなどない」  男は、ふむと首をひねって、操の目を覗き込む。そのまっすぐな視線に耐えられず、唇を噛むと、操はまた少しだけ体を後退させ、ありえないんだよ、と吐き出した。 「俺は……Ωじゃない。βだ」
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