第1話

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 操の告白に男は少し沈黙した。そうだ、自分はΩ性ではない。生まれてから二十数年、ただのβとして生きてきた。そう思うと、操は目の前の詐欺みたいな話を説き伏せるように強い口調で言う。 「定期検査でもずっとそうだ!ヒートなんて起こしたこともねえよ。なのに、どうして……俺はΩ性じゃないから、お前の見立ては間違いだな!俺が「それ」なわけがない!」  叫んだ直後にくらりと視界が揺れる。  まだ気分が悪かった。火照るような熱が自分の中にこもっている。  けれど……これがヒートなわけはない。経験したこともないのでわからないが、自分の性には自信があった。母親が医療関係でビジネスをしていることもあり、半年に一度は検査しているし、その際に異常がでたこともない。直近だって3ヶ月前に定期検診を終えたところだ。  この世界には男女の性の他にα、β、Ωというバース性がある。大半の人間がβである。α、Ωは少ないが、繁殖に関して特殊な性だ。特にΩについては、その発情特性から、つい半世紀前まではかなりの偏見があった。しかし、今は様々な社会的制度で守られている。そのため、バース性検査は現代では非常に重要で、自分の性の把握は大切なのだった。  自分がΩなわけがない……、操の主張に男は少し黙ると、胸においていた指先をとんと押し、その体をベッドへと押し倒した。     
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