プロローグ

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*  自分の中を「違うもの」が這いずり回っているようだ。  今まで感じたことのない気持ち悪さに、体が魚のようにびくびくと跳ねる。自分のものではないような、体と心が離れたような不安と刺激。その吐き気に思わず嘔吐いた。  チカチカと街灯の光がちらつく。暗くて周りに誰もいない中とはいえ、往来で寝転がり、男に跨られている状況に羞恥を感じたが、それ以上に気分が悪く迫り上がるものを抑えられなかった。 「ぅえ……っ、がっ……」  けほけほと噎せると、ぐっと胸元を押さえられる。自分がやせ細っているとは思わないが、体格差もあって抵抗ができない。少し長い前髪の合間から相手の影が見えた。 「あまり抵抗すると、気分が悪くなるぞ」 「っ……やめっ……」  めくりあげられたシャツの下で自分の肌があらわになる。ひやりと冷えた夜の空気が肌をざわつかせ、それに胸元がびくりと反応した。 「俺の指に逆らうな」  そう言って触れてきた指先は、あまりに美しくて目眩がした。男の指をこんなに綺麗だと思ったのは初めてだが、そんな感情に惚けている暇はない。  自分の体に跨っているその体を見ると、ちらっと見えた腹筋がきれいに動いている。  目の前にいる男の顔はよく見えない。少し長い黒髪に金色のメッシュが一束さらりと揺れる。その奥にある金と青の切れ長の瞳が自分をじっと見つめていた。常人離れした容姿に惚けるも、そのオッドアイの視界に映る自分は……なんという表情をしているのだろうか。夢であってほしいと切に願うも、この感覚は確かなもので、体は快感と悪寒の狭間に揺り動かされている。 「っ……んああっ!」  少しだけ長い爪が、かり、と肌を引っ掻く刺激に熱がこもる。自分の体がまったく別物のようだ。  体の外にも中にも熱がこもり、何かを解放したくともできないもどかしさに身を捩る。けれども、うまく体が動かない。  そして……まるで全身が性感帯にでもなったかのようなひくつきに耐えられなかった。
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