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「今日こそ一緒に風呂に入ってやってもいいぞ」
「いや、一緒にははいんねえから……ってか、なんで上から目線なんだよ」
この前から、一緒に風呂に入ろうとねだられているのには頭を悩ませていた。そこそこでかい男二人が入れるほどうちの風呂は広くない、と答えながらも、いや、そういう問題でもない、と自分でつっこむ。
「この前からなんなんだよ。ったく……うちの風呂のでかさじゃ無理だし、そもそも風呂は男二人で入るもんじゃアリマセン」
「パートナーの体の変化を見ておかなくては」
「いや、セクハラだからな?ふつーにハラスメント」
「せくはら?」
「都合悪い言葉だけわかんねえのかよ……もっと現代の勉強をしろ」
はあ、と操はツッコミに疲れてミタマの耳を撫でると、俺、先に入らせて……とふらふらと風呂に向かった。
土日も病院や性変更の登録や、Ω性の特殊手続きなどで出かけていたため、疲れがたまっていたらしい。操がベッドに入ると眠気に沈んでいくのに数秒もかからなかった。ああ、ミタマの髪の毛乾かしてやるっていったような……もう無理……と、うつらうつらと眠りの入り口を探し始めた。
ベッドがぎしりと軋み、ミタマが寝床に入ってきたのを感じる。けれど、覚醒するほどではない。髪の毛は自分で乾かしたのだろう、ふわりといい香りがした。
自分の体を包むように寝るのに最初は戸惑ったが……こうすると、眠るのが怖く無くなるのだ。あの事件があってから、数日は寝つきが悪く、大丈夫だと言われても「狭間の世界」に入っていってしまうような恐怖に襲われていた。
一緒に眠るミタマの匂いと尻尾の感触に包まれると、そんな不安もなく熟睡できるようになっていた。恐ろしいもので、一人で暮らしていた時とは随分と違う生活にもう慣れた。
ミタマの尻尾はモフモフと動き、操の体をくるんでいった。天然の布団だな、と思っていると、そっと体に腕がまわされる。弄るでもなく、ただ慈しむようにふわっと触れた腕。それに包まれると心地よく夢へと落ちていく。
(あったかい……ってか、あついっつー……)
文句も最後まで呟けないまま、操は静かな眠りに落ちた。
春色の世界の中、神様の尻尾に包まれてうたた寝る……そんな幸せな夢を見ていた。
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