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(なんか妙だな)
そう感じたのは家からコンビニまでの道でだった。
鎮まり返りすぎた道の音。車のない車道。
(まだ十二時だろ?)
しんとした町にはまるで人一人いないみたいで、世界に自分だけのような感覚に陥る。まだ夢の中にいるかのようだが、自分の体は現実にいると思われた。
(なんだこれ……明晰夢みたいなもんか?)
空でも飛べたりしてな、なんて思った操だったが、バチバチとした音にハッとして頭上を見上げた。古い街灯の明かりが、残りわずかな命を灯している。古い街灯?こんな寂れたものは此処にあっただろうか?
(……こんなんだったっけ……ここ)
コンビニまでをやけに遠く感じ、ふと目の前を見ると、人の姿が見えた。その奥にはいつものコンビニの看板が見える。明かりがやけに暗いように思うが、なんだ、やっぱり普通じゃないか、とその人を追い越そうとした。
ふと追い越す際に肩が触れた気がして、え、と振り向いた瞬間、操は動けなくなる。
(な……な、なっ!?)
のろのろと歩いていた「人影」が……人ではなかったからだ。顔のないその影は……ただの影で、そこから伸びてきた腕……のようなものに強く肩を掴まれる。
「……っ!?」
声も出せないうちに、その、「黒い影」は口のあたりを大きく開けて、ニヤリと笑った。
『みぃつけ、た』
その瞬間に影がまるで羽虫のように大きな音をたて、操の体を飲み込んでいく。
「うあああああ!?」
耳奥で鳴る無数の羽音に驚き、なんだこれ、なんだ、この夢は!?と混乱に陥るうちに、道に転倒してしまい、そこに影が跨った。まるで細かな霞か虫の集合体。解像度の悪い画像のようなノイズに跨られ、その影の「目のない顔」が、口元だけを歪ませた。
『まっさらな、よりしろ』
「!?」
訳のわからぬ言葉に怯えているうちに、自分の服に黒い霞がかかっていく。肌を通って何かが入ってくる感触に、ぞわぞわと悪寒を感じた。
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