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「っ……!?あああ!?」
目の前の大きな「口」の中、ぽっかりと空間が広がっていく。その奥は……闇だ。
その気味の悪い暗闇に怯えて叫ぶも、自分を飲み込もうとする口は大きく開いて……にやついていた。
『いただき、ます』
深く響く気持ちの悪い声。えも言われぬ恐怖に体が固まる。まるで金縛りにでもあったかのように道路の上で手足が伸び、動けない。
伸びてきた腕?指?の感触が、喉元を撫でてそこを掴んでくる。息がつまる感覚に声を奪われ、大きな闇に飲み込まれそうになった。
(嘘だ……夢だ……こんなのは、夢だ!)
目を強く閉じて、恐る恐る開くと、暗闇の顔の中に……多数の目玉が浮かび、じっとこっちを見ていた。
「うあああああッ!?」
今まで出したことのない声を上げ、もう悪夢に食われると思った瞬間、
「……情けない声出してんじゃねえよ」
少し呆れた優しい声とともに、閃光が差した。
眩しさに目がくらみ、ぎゅっと目を閉じる。先ほどの体験から、目を開くのにかなりの抵抗があったが、おい、という声に誘われて、ゆっくりと視界を開いた。
白い光が溢れている。その強い光がゆっくりと夜の闇を取り戻す中、操は思わず息を止めた。
自分の上に乗っかっていた黒い塊の代わりに、ヤンキー座りでこっちを眺めている男がいる。右手にもった刀を横で一振りし、肩に担ぐようにした男は、切れ長の視線を操に寄越した。
「勝手に食われかけているなよ。誰の許可をとってんだか」
「……え?」
少し低めの甘い声に安心すると、暗さを取り戻した夜に金と青の双眸が細まり、薄い唇が弧を描いた。
「そう怯えるな。俺の依り代サマ」
ぺろりと出した舌は幼く、けれど、美しい男だと思った。
さらりと落ちる髪に見とれて視線をゆっくりと上げていくと……そこには大きな獣の耳があり、操は声を失った。
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