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南陽というと洛陽の南、汝南の西、荊州の最北部だな。いわゆる中原の南西部ギリギリがそこだ。
「徐刺史は?」
「南陽太守許貢へ増援を行い、州軍一万を送りましたが、張曼成率いる荊州方軍に敗北し全滅しました」
張というとあの時の奴か? それにしても全滅とはお粗末なことだ。確か方軍というのが師団のようなものだったな。
「西陵の備えはどうだ」
「四県の相互支援を促進し、予備隊を西陵に置いています。今は張遼が統括を」
なら問題ない。溶けた一万は勿体ないが、なにも死んだわけじゃない逃げただけだ。
「そうか。長くはかからんはずだ、文聘は華容で待っていてくれ」
「ここでですか? 承知しました」
その日はそれで終わりになる。一日、そしてまた一日経ったところで、一人の文官が牢獄にやって来る。
「島守県令殿、徐刺史がお呼びですのでこちらへ」
黙ってついていくことにしよう。城内をゆくと、広間に十数人が集まっていた。中央の上座に徐刺史が座っている。進み出ると「島介参りました」言葉も短く儀礼的な挨拶のみをする。
「伯龍殿、いま荊州は大変な危機に陥っている。黄巾党により南陽の地は乱れ、多くの将兵を失った。潁川、冀州などでも蜂起しており、中央からの援軍も望めない」
幕僚らの顔を見てもそれが事実なんだろうなと知る。
「南陽は厳しい圧迫を受け、増援を送るよう矢のような催促をしてきている。だが荊州には最早五千の兵しかないのだ。どうすべきか、伯龍殿に聞きたい」
「この場に居られる諸官に聞かれてはいかがでしょうか」
ちょっとした意地悪だよ。
「こやつ、何と生意気な――」
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