零章 「ダンジョン」

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大理石の床をカツカツと鳴らし、足早に客人が集まる応接間へと向かう。 青年は気だるくため息をしながら、その場で行われるであろうことに落胆していた。 屋敷は広い、だが、今しがたこんな屋敷も狭く感じていた。 それは数分前の出来事であった。 実兄に呼び出され、家族一同が集まる広間へと向かったところ。 一同が青年に侮蔑的な目を向けた。 「一族の恥晒しが」 兄は会うや否や酷い罵声を青年に浴びせた。 その目には怒りはあるものの、身が凍るほど冷たい目をしていた。 「貴様はまだわかっとらんようだが、我々は選ばれし一族だ。それ故に能力を持たぬ下等人種の前で恥を晒すなどあっては行けない」 兄はそう言い、青年に近づく。 すると否や、青年の腹に拳を打ち込む。 鈍い音と共に、床に転がり込むようにして悶絶する。 「ふん、蛆虫が。貴様の処分は下された。貴様はこれより『ダンジョン』に向かって貰おうか。なぁに、のたれ死んでくれとは言わせないでくれ。どうか、懸命に死んでくれ」 実の兄からの冷酷な発言を、ただただ受け入れるしかなかった。 自分はそれほどのことをしてしまったと青年は自責の念に駆られた。 「私も実の弟である貴様を孤独に死なすのもこころ痛いものだ。せめてもの救いだ貴様と死んでくれる者達を用意しておいた。せいぜい、生き恥を晒さず素直に消えてくれ。さて、応接間へと向かえ愚弟が」 これが兄との最後の言葉であろう。 涙さえ出てこない。 父や母さえ味方してくれない。 むしろ、生みの親でさえ、青年に消えて欲しいと願っていた。 この家を出ていけるならばと、青年は歩幅を大きくし、急いで応接間へと向かった…
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