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私は今日も影に連れられ近所の公園に来ている。
中学を境に変わってしまったといってもこの時間は変わっていない。
・・・変えようとしても影が頑なに拒んだから変えることができなかった。というのが正当か。
この公園も少しづつ変わっているが、思い出の場所はいくつか残っている。
影はそんな変わってしまった場所に、新たに思い出を作るかの如く遊んでいる。
高校生にもなって何で公園でこんなにはしゃげるのだろう?と疑問に思いつつも、やることのない私は影を撮っている。
今撮っているこのカメラは、高校進学記念で母がプレゼントしてくれたビデオカメラだ。
影はオーディオ機器を希望したようだが、私はなぜカメラにしたのか、正直覚えていない。
覚えてはいないが大切にしている。
壊れないように丁寧に保管しているし、使ったらすぐに充電し、データのバックアップもしっかりとってある。
前に保存データの整理をしたことがある。
初めてのデータは被写体の影とそれを撮っている私が一緒に映った、たった六秒の動画。
液晶パネルの横にもうひとつある小さな広範囲に首を振れるレンズで、ワイプ動画も一緒にとることができるのだ。
「ちゃんと撮れてるー?」
「映ってるよ。」
「あとでみせてね!」
「いや。」
文字に起こせばたった4行の会話。
明暗がはっきり見えるような明るく笑う陰と、こけしのように無表情な私が映っていた。
この無表情な私を見て、私は横についた小型レンズを正面にしか向けなくなった。
過去のデータも、これからのデータも私のカメラは正面しか映さない。
自分の見ている”今”を残すだけの代物になった。
だか日常的にカメラを回しているわけではない。
外に出歩くときだけ持ち出すようになった。
そのせいか、カメラのデータには陰がよく映っている。
楽しそうに笑う陰が、忌々しい私の影が。
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